世界滅亡 or KISS の楽曲分析!!(前編)
喜多日菜子アドベントカレンダー2020の17日目の記事です(大大大遅刻@w@)
「世界滅亡 or KISS」とは!?
アイドルマスターシンデレラガールズの妄想アイドル !!喜多日菜子ちゃんをご存知ですか??
日菜子ちゃんは妄想が趣味・特技の15歳ですが、王子様が迎えに来てくれる理想のお姫様を夢見て、日々アイドル活動を頑張っています。
「世界滅亡 or KISS」は、そんな喜多日菜子ちゃんの初めてのソロ曲で2020年に発表されました。
デレステに実装されたときも反響はあったのですが、フル版が発売/配信された際には更に大きな驚きを生みました。
7分14秒もの長尺と、全六章が用意されたコーラス。日菜子のセリフも随所に散りばめられ、歌詞の長さはまじで半端ないです。
しかも、各章はただの繰り返しではなく、幾層にも展開が重ねられ、ドラマチックに日菜子の大冒険が描かれます。
まさに小さなオペラと言えるような1曲だと言えます。
「世界滅亡 or KISS」アナリーゼ
そんな「世界滅亡 or KISS」は、ただ聴いてみるだけでもモチロン素晴らしいのですが、楽曲の構成を知るとより楽しめる曲になっています。
筆者はクラシック畑の出身なので、基本的にはクラシックの楽曲分析っぽい話の仕方をします。
なるべく平易な内容に留めて、普段は音楽をしない人にもこの楽曲の面白さを伝えられると良いなと思って書いています。
転調の多い曲ということもあり、各パートで選ばれた調が西洋音楽ではどのようなイメージが有るのかも含めて解説します。
歌詞や世界観の考察については、ベルリシアさんの記事など他に譲ります。
いやはや、しかし、まさか担当アイドルのソロ曲がこのような長大かつ展開の多い曲として産まれることになるとは・・・。
(なお、この記事での章分けや各解説は筆者の個人的な解釈であることをご理解ください。)
序奏部:「この中に王子様は〜」
フル版 00:00〜
ゆっくり夢に落ちていくシーン。
序奏はヘ長調。
ヘ長調は、平和・牧歌・田園的・素朴といったイメージ。代表的な曲ではベートーヴェンの交響曲第6番「田園」でしょうか。
(上図)ギターのアルペジオを伴奏に、日菜子のセリフが乗ります。
この先の大冒険の予感はまだ無く、平穏そのもの。
(上図)序奏の終わりに教会のチャイムが鳴りますが、これは日菜子による「結婚式の誓いのキス」のイメージでしょうねw
ギターのリフにより場面転換して第一章に進みます。
第一章:「私はどこにでもいる普通の女の子〜」
フル版 00:32〜
第一章は、まだ学校や街の現実味のあるシーン。
第一章に入ると、トランペットによるサビのメロディに日菜子のセリフを乗せて、音楽は一気に明るくなります。
ホ長調。オーケストラやポピュラーではよく使われる調で、ヴァイオリンやギターなどと相性がとても良い。底抜けに明るい感じがありつつも、どこか不安定さもあり「希望のない恋愛のイメージ」とも言われていたりするらしい。まさに。
作業用BGM ヴィヴァルディ 四季 春 夏 秋 冬 The Four Seasons (Vivaldi) - YouTube
(上図)続く日菜子の歌うAメロ、Bメロ、サビも調子良く、(いまのところは)普通のアイマスソングです。
第一章の終結部を少し解説。
「またもや魔法使いさんが現れてこう言った。王子様は思わぬところにいるかも知れないよ?」のところに掛かるティンパニの打ち込み(上図)、フルートのトリル(上図)やヴァイオリンの下降音型(下図)により、次の二章のフルオケ感を導いています。
ゲーム版は第一章の終結部が変更されここで終わり。ですがフル版はまだまだ続きます。
第二章:「広いこの空の下の〜」
フル版 01:57〜
第二章は、レッツ冒険だ!どこまでも猪突猛進だー!!
(イメージのアイドルは氏家むつみちゃんです)
(上図)第一章から継続してホ長調。音楽の流れは第一章を引き継ぎます。伴奏はオケアレンジになり、行進曲風の勇ましい曲調です。第一章と比較するとAメロは和声が変更され、Bメロに入るとメロディにも変形が見られます。
トランペット、ホルン、オーボーなど管楽器の対旋律が音楽を彩り豊かにします。
(上図)サビに入るところ「羽ばたけ!」の3音の音価(音の長さ)が拡張されているところに注目です。このように提示済みの音型を溜めることで音楽的にはエネルギーが溜まり、元に戻るところ「羽ばたけ!」で解放されます。第一章から続く音楽の流れは一度頂点に達します。ここは非常に気持ちいいですね。
第三章:「王子様、どこにいるの?〜」
フル版 02:47〜
第三章は大きく場面転換。古戦場パートを含む闘争の音楽
勇壮さは一気に激しさにスイッチ。音楽的にも最も展開の激しい章です。
(上図)第二章サビ終わりに被せて嬰ハ短調に代わりますが、これはホ長調の平行調です。平行調とは、「♯や♭の数が同じで長調←→単調の関係」にあるものを言いますが、効果としては同じ世界の表と裏のような空気を感じさせます。
嬰ハ短調は全調性の中で最も暗く、残酷さ、悲痛さを持ちます。筆者的には「闘争の音楽」のイメージがあります。
マーラー 交響曲第5番 Mahler: Symphony No. 5 信州大学交響楽団第100回記念定期演奏会 - YouTube
フル版 03:10〜
(上図)「アブナイ 恋の憧れ 触れちゃダメと分かってるよ... けど」に続く「たまに刺激も欲しい」でホ短調に転調します。「けど」最後2音で歌詞的にも場面転換を促し、併せて音楽的にも転調を導く音となっています。これはオペラやミュージカルにもよく見られるやりかたですね。
ホ短調は、ホ長調の同主調(同じ主音の長調←→単調)です。これもまた、主調(ホ長調)のもう一つの世界線のような役割を持ちます。
この曲の主調であるホ長調に対して第三章で登場する嬰ハ短調とホ短調。これらの調の選び方には明確な意図を感じますね。
ホ短調も嬰ハに同じく悲痛さがありますが、不安感をより強く持ちます。少し先のさらなる激しさを予感させるようです。
メンデルスゾーン ヴァイオリン協奏曲 ホ短調 から第1楽章 - YouTube
フル版 03:22〜
(上図)「ヤケドしちゃうくらいの恋」のところで転調ではないのですがイ短調を感じさせる部分になります。
イ短調は女性的、柔らかい悲しみと敬虔な諦めを感じさせます。この調性は歌詞の内容に沿ったなかなか面白い選択です。非常に短い部分ですが、一瞬空気を落ち着かせる重要なパートです。
グリーグ: ピアノ協奏曲 イ短調:第1楽章[ナクソス・クラシック・キュレーション #切ない] - YouTube
フル版 03:28〜
「熱い...熱い熱い熱い熱〜いっっ!!!」
(上図)古戦場パートと呼ばれる部分。ギターソロ(採譜はサボっていますが...)。よくある曲だとDメロの部分にギターソロがあるが、ソレに相当するパートと言える。
音楽的には全曲通して最も激しい、緊張度の高い部分です。
調性は2つ前のホ短調に戻っています。
ギターソロに合わせて歌を入れるというのは、やりたいけど中々上手く処理するのは難しいです。ここのパートの上手さは、日菜子のセリフを入れて音楽的には喧嘩しないようにそれを実現してるというところです。
次回
記事が長くなりすぎたので2日分に分けました。